決して諦めない
強い意志
PROJECT STORY 03
原因不明。電子制御の不具合を解決する。
サービス本部 技術部 技術チーム:T.I
PROJECT STORY 03
原因不明。電子制御の不具合を解決する。
サービス本部 技術部 技術チーム:T.I
2011年、1台のフェントF415トラクターが故障したと連絡が有りました。故障内容はトラクター運転中にメーターパネル中央に位置する液晶パネルの表示が間欠的に消える、アワメーターの表示がリセットされてしまう、メーターパネルとトラクターの電子制御システムが作動停止するといったものでした。どれもエンジン再始動で正常に復帰するとのこと。あまり聞いたことの無い故障でしたので、すぐに世界中の故障事例を調べましたが、どこにも類似の事例がありませんでした。
電子制御部品の不具合は通常、電源・アース配線の点検から開始します。このときも同様に点検を進めたのですが、問題が特定できませんでした。他の国で同様の故障事例が無いこともあり、工場出荷以降に取り付けられたオプションや作業機関連の装備などが影響している可能性を考えて、すべてを取り外したうえで改めて診断を行いました。
すべてを取り外した状態でも症状は解消しませんでした。つまり、トラクター自体に問題が発生しているというわけです。診断用PCを使用して見えない部分の点検も実施しましたが、原因を見つけることは出来ませんでした。お客様をお待たせしていることもあり、メーターパネルを含む関連する電子制御部品をすべて交換することにしました。
症状を発見した当初より、AGCO社のサービスマネージャーにメールで報告し、可能性のある要因についてアドバイスを受けながら点検を進めていました。サービスマネージャーとは日頃からメールをやりとりしていて、様々なアドバイスを頂いているので、今回の件も調査内容を逐次報告し、故障の原因究明に助言をいただきました。サービスマネージャーとしては、キャブ内全体の電気ハーネス(電気をそれぞれの機械に送る線の集合体)が問題の原因ではないかとの推測でしたので、指示に従い、こちらで交換を決めたメーターパネルを含む全電子制御部品と、ハーネスなど電気系統の配線を含むすべての部材を交換しました。
症状は再発し、故障は完治しませんでした。
私たち、そしてAGCO社のサービスマネージャーの考え得る範囲の点検や交換はすべて実施しました。しかし故障は解決しません。その時すでに故障発生から1年が過ぎようとしていました。長期に亘りお客様をお待たせし、ご迷惑をおかけしている状況でしたから、一刻も早く問題を解決しなければと言うのが、営業・技術・メーカー担当全員の共通の思いでした。それで、最後の手段として、ドイツ工場より熟練の技術者を派遣してくれるようメーカーに要請しました。
はい。私たちの要請を受けて来日したのは、経験豊かな技術者でした。彼はフェントトラクター導入当初から我社をコーチングしてくれている技術講習トレーナーで、トラクターの設計分野に関しても知識が豊富な、まさに最後の希望とも言える人物でした。到着後すぐに作業に入った彼は、オシロスコープ(電圧の変化を可視化する装置)を使って、電気系統に異常がないかをつぶさに確認していきました。
電圧変化を系統立てて確認する手法を学んだのはその時です。とはいえ、原因はすぐに特定できませんでした。
そうですね。でも、私たちには必ず解決するという強い気持ちがありました。支社の技術チーム、担当営業所の営業マン、技術員も皆が毎朝トラクターを前に状況を確認し、お互いに率直な意見を出し合ってディスカッションしました。長期に亘って問題を解決できない歯がゆさが有りましたが、皆が解決を信じて動いていたと思います。
一番は、ご迷惑をおかけしているお客様に早くこのトラクターをお戻ししたいという気持ちです。さらに、原因のわからない故障でも必ず直せるという前例を作ることは、お客様の安心に繋がります。今後も、どんな故障が起きても直してくれるという信頼を獲得したいと思っていました。
当初予定の1週間で原因が判明せず、滞在期間を延長しなければならなくなりました。本国ではクリスマスの長期休暇が控えている非常に忙しい時期でしたが、一所懸命に対応してくれました。営業マンと我社の技術員が長期解決できない状況をお客様に説明・お詫びに伺った際に、同行してお客様のメーカーに対する期待の大きさを直接聞くことで、使命感が更に強まったようです。
技術者は時間をかけて丁寧に電圧の変化を記録していきました。それぞれのデータに異常は無かったのですが、それを全体的に俯瞰すると、定期的に原因不明の電圧上昇が起こっていることを発見しました。定期的というところがポイントです。それで、一つの仮説が再浮上しました。それは、静電気が蓄電されることで電圧異常が発生し機器が不具合を起こすというものです。このアイデアは初期段階に挙がりましたが、あまり現実味のあるものでは有りませんでした。回転する機構をもつトラクターでは、静電気の発生は設計段階で考慮されアースを取るなどの対策が講じられているからです。それで、トラクターに簡単な静電気除去装置を取り付けてみました。すると、それまで発生していた定期的な電圧異常が収まり、機器の不具合も解消しました。メーカーの技術者も問題の原因を構造上の観点から分析し、本国へフィードバックを持ち帰りました。そして、日本で点検した内容は、継続生産車に対策が採用されることになりました。
それは、誰一人諦めなかったことです。チームの全員が、お客様のために解決するという強い意志を持っていて、向かう方向が一緒だったと感じています。それにはメーカーの技術者も含まれます。MFMはただの輸入販売会社ではないという実感が有りました。きっと今後も難しい問題に直面するかもしれませんが、諦めなければ必ず解決すると感じましたし、それをお客様にも知っていただけたのは本当に嬉しい体験でした。
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